TARCとCTAKレベルとアレルギー疾患の関係についての論文続きその2 患者の選別について
さて、久しぶりに論文紹介です。
もうお忘れの方も多いでしょうから、簡単に紹介している論文の内容を書いておきます。
今紹介している論文は、TARCやCTACKというケモカインと呼ばれるシグナルがアトピー性皮膚炎に特有のマーカー(指標)になるのではないかという論文です。
前回はイントロの途中まで紹介しました。
さて、これの続きからです。
引用元論文についての情報:
Hijnen, D., De Bruin-Weller, M., Oosting, B., Lebre, C., De Jong, E., Bruijnzeel-Koomen, C., & Knol, E. (2004). Serum thymus and activation-regulated chemokine (TARC) and cutaneous T cell- attracting chemokine (CTACK) levels in allergic diseases: TARC and CTACK are disease-specific markers for atopic dermatitis. The Journal of Allergy and Clinical Immunology, 113(2), 334–40. http://doi.org/10.1016/j.jaci.2003.12.007
Introduction途中から
内皮細胞,樹状細胞そしてケラチノサイトを含む様々な細胞のタイプ はTARCを生産すると示唆されてきた。更に、血小板が多量のTARCを持っていることもわかり、最近報告されたプラズマと血清TARCレベルの間に非常に大きな違いを生み出している。
内皮細胞(endothelial cells)、樹状細胞(dendritic cell, DC)、ケラチノサイト(Keratinocyte)ですが、画像がありました。
引用元:
Origin, homeostasis and function of Langerhans cells and other langerin-expressing dendritic cells
Nature Reviews Immunology 8, 935-947 (December 2008) | doi:10.1038/nri2455
内皮細胞は直接用語が書いてないですが、調べてみるとDermisという言葉の下にある細胞のことだと思われます。
これまでの研究によって示された、気管支上皮細胞と鼻腔上皮細胞内でのTARC生産によって、Allergic asthma(AA、アレルギー性喘息)とAllergic Rhintis(AR、アレルギー性鼻炎)においてTARCも何らかの役割を担っていると示唆された。しかしながら、アレルギー疾患を患う表現形的に非常にはっきりしている患者において血清レベルを臨床現場での調査は行われてこなかった。
CTAKは最近同定されたケモカインの一種で、皮膚に対して組織特異的にT細胞誘導を行うのに非常に重要な役割を担うと考えられている。CTACKは皮膚表皮のケラチノサイトで恒常的に発現しており、CCR10のリガンドである。
CCRはC-Chemokine Receptor 10の略で、7回膜貫通型タンパク質の1種です。
多分、なんのこっちゃわからない人もいると思うので、以前の記事を見てみてください。特定の物質が結合すると、細胞内部にシグナルを伝達して次の行動を起こさせるための受容体です。
さて、続きを書きます。
TARCと同様に、CTACKはCLA+ TH2細胞を末梢血から引きつけます。しかし、CTACKは表皮細胞で恒常的に発言していることから、通常の免疫活動中、皮膚を通して基本的なT細胞の移動に関わっている可能性があります。更に、in vitroの研究によって示されたのは、CTACKの生産が前炎症性サイトカインによって更に引き起こされることであり、血管系E-セレクチンの発現が増加するとともに、皮膚炎症中に皮膚において記憶T細胞が増加することを説明してくれる可能性がある。
この研究の目的は、アレルギー疾患におけるTARCとCTACKの血清レベルが増加するという特定性を調査し、TARCとCTACKをアトピー性皮膚炎(AD)患者における重症度の度合いのパラメータとして評価することである。最後に、我々は免疫化学的な手法を用いて、ADを患う患者の摘出標本でTARCとCTACKの部位特異的な研究を行った。
これでIntroductionは終わりです。
ちなみに、摘出標本は原文だとlesional skin biopsyです。
これはどういう手法なのかというと、以下の画像の通りです。
画像引用元
アトピー性皮膚炎なら炎症を起こしている部位の表皮から真皮に至る部分までを摘出して、それをスライスし顕微鏡で見ます。
割りと破壊的なメソッドみたいですね。結構痛いんじゃないでしょうか。
さて、次はMethodsです。
メソッドについて
患者とサンプル数
455人の人間の検体から血清を取得した(Table Ⅰ)。AD(アトピー性皮膚炎)患者の診断はHanifinとRajkaの手法に従って行った。AR(アレルギー性鼻炎)患者の診断はアレルギー症状の過去の履歴およびLebelらによって説明される、鼻刺激の陽性反応に従って行われた。AA(アレルギー性喘息)患者はメタコリンPC20を9.8 mg/mL以下持つもの、あるいはサルブタモールを吸入後9%以下の可逆性を見せたものを選抜した。
喘息の診断はピークフロー値を見て診断することが多いですが、病院に検査に来た時に正常な肺活量と診断される患者もいます。
その患者は病院に来た時には問題なくとも、他の時に喘息を発症している可能性もあり、それを試験するのがメタコリン負荷試験といいます。
私はメタコリン試験を受けるまでもなく、肺活量が小さすぎるし、肺炎が酷すぎて胸のX線写真が真っ白になっていて結核を疑われるほどでしたのでメタコリン試験は受けませんでした。
さて、メタコリン負荷試験についてです。
参考文献からまとめてみました。
参考
http://merckmanual.jp/mmpej/print/sec05/ch046/ch046b.html
メタコリンによって気管支を刺激し、擬似的に喘息の状態にします。
この状態でスパイロメトリー(呼吸機能検査)を行います。
この状態で、肺機能の20%を下回るような濃度のメタコリン濃度が1 mg/mL以下の場合は喘息と確定診断する。
16 mg/mL以上のメタコリン濃度の場合、喘息とはいえない。
1-16 mg/mLの場合、喘息かどうか確定ではないがどちらとも言えない状態
とのことです。
これはメルクのマニュアルからとってきた数値で、海外のデータと照らしあわせてみても妥当な数値のようです。
この論文では、メタコリン濃度9.8 ml/mL以下の人たちというフィルターを通しています。
これに加えて、メタコリン誘発試験後、サルブタモール(気管支拡張症)を吸入させ、呼吸機能が9%以上改善したものという第2のフィルターを通しています。
この2条件を通ったものだけが喘息と診断され、今回の論文でいうAA(Allergic Asthma)という表記になっています。
非常に厳格な定義です。
というわけで、今回はイントロの途中から、メソッドの患者の選別までを書いてみました。
次回は、患者の選別の続きから始めます。
ではでは。